「Excelでやってきたから、今さら変えなくていい」——この言葉が変わったのは、ベテラン担当者の退職がきっかけでした。
複雑な集計Excelを作った本人が辞めた後、誰も中身を理解できませんでした。修正するたびに数式が壊れ、月末集計のたびに残業が発生しました。それが移行を決断した本当の理由です。
ここでは、出来高・歩掛の集計をExcelからクラウドに移行した専門工事業の事例を、移行前後の比較を含めて紹介します。
この会社の概要
- 業種: 鉄筋工事業(専門工事)
- 規模: 年商約18億円、従業員32名、現場担当者8名
- 移行前の管理ツール: Excel(VBAマクロ付き)+ 紙日報
- 主な課題: 担当者依存・月末集中・フォーマットのバラつき
移行前の状態:何が問題だったか
1. Excelが「属人的な要塞」になっていた
10年以上運用してきたExcelは、複数の担当者が少しずつ改造を加え、誰も全体を把握できなくなっていました。数式が壊れても「触らないほうがいい」という空気がありました。
2. 月末に集計が爆発する
日報・出来高データは現場から週1でFAXが届きます。それを事務所のスタッフが手入力し、月末に一括集計する流れでした。月末の3〜4日間、事務スタッフの残業が10〜15時間になっていました。
3. 現場間の比較ができなかった
各現場のExcelファイルが独立していたため、「どの現場の生産性が高いか」「どの工種の歩掛が実績と乖離しているか」を横断的に確認する手段がありませんでした。経営判断に使えるデータになっていませんでした。
4. ベテラン退職で危機が顕在化
唯一Excelの全体を理解していた事務担当者が退職しました。引き継ぎで2名が関わりましたが、1ヶ月後の月末集計でエラーが多発しました。「このままでは続けられない」という判断に至りました。
移行のステップ:どう進めたか
ステップ1:現状の洗い出し(2週間)
まず「何のデータを・誰が・どの頻度で・何のために使っているか」を整理しました。
出てきたのはこういうリストです。
| データ | 使用者 | 頻度 | 用途 |
|---|---|---|---|
| 日報(作業員数・作業内容) | 現場→事務 | 週次 | 月次集計の原票 |
| 出来高(工種・数量・単価) | 事務 | 月次 | 発注者への出来高請求 |
| 歩掛(工種・数量・投入人工) | 所長・事務 | 月次 | 工種別生産性の確認 |
| 原価差異(予算vs実績) | 経営者 | 月次 | 利益管理 |
「実は誰も使っていない」データが複数あり、Excelの複雑さの原因の一部がここにありました。
ステップ2:フォーマットの統一(1ヶ月)
移行先ツールを決める前に、入力フォーマットを統一しました。
バラバラだった現場ごとの日報様式を1種類に統一し、記入項目を絞りました。「今まで書いていた項目の3割は、読む人も使う人もいなかった」という事実が、この作業で初めて明確になりました。
ステップ3:クラウドツールの選定とパイロット導入(1ヶ月)
2現場でクラウド集計ツールを試験導入しました。ポイントは「Excelへの出力ができるか」です。発注者への提出書類がExcel形式を求めるケースがあったため、出力互換性を確認しました。
ステップ4:全現場への展開(2ヶ月)
パイロットで問題が出なかったことを確認してから、全8現場に展開しました。ツールの操作研修(30分)と、最初の1ヶ月はExcelとの並行運用を行いました。
ステップ5:Excelからの完全移行(3ヶ月目)
並行運用中に問題が出なかったため、3ヶ月目からExcelを廃止しました。「旧Excelに戻す」という選択肢を明示的に閉じたことが、完全移行の決め手になりました。
移行後の変化
数値で見た変化
| 指標 | 移行前 | 移行後 |
|---|---|---|
| 月次集計時間(事務スタッフ) | 約40時間/月 | 約8時間/月 |
| 月末残業(事務スタッフ) | 10〜15時間 | ほぼゼロ |
| 現場間の生産性比較 | 不可 | 月次で確認可能 |
| 歩掛の実績データ蓄積 | ファイルごとに散在 | 一元管理 |
| 担当者交代時の影響 | 大(属人化) | 小(ドキュメント化) |
定性的な変化
経営者の変化: 月末に「集計が上がってくるのを待つ」から、「いつでも最新データを確認できる」状態に変わりました。利益管理の意思決定が早くなりました。
現場所長の変化: 週次で自分の現場の出来高・歩掛データを確認できるようになりました。「予算と実績のズレに気づくのが月末から週中に早まった」という声が出ました。
事務スタッフの変化: 月末の集中入力がなくなり、通常月は定時退社が増えました。「ルーティン入力」から「データ確認・チェック」に役割が変わりました。
移行で失敗しやすいポイント
フォーマット統一を後回しにしない
バラバラなフォーマットのままクラウドに移行しても、クラウド上でバラバラになるだけです。移行前のフォーマット統一が最も重要な作業です。
「完璧な移行」を目指さない
全データを過去分から移行しようとすると、工数が膨大になります。「新規データからクラウドに入れ、過去データはExcelを参照する」形で進めるのが現実的です。
並行運用期間を設ける
1〜2ヶ月の並行運用期間を設けると、「やっぱりExcelに戻したい」という心理的抵抗が和らぎます。「いつでも戻せる」という安心感が移行を後押しします。
よくある質問
Q. Excelのデータを移行先に取り込めますか?
A. 多くのクラウドツールはCSVインポートに対応しています。全データを移行する必要はないので、「新規データから新ツール」という方針で進めることを推奨します。
Q. 現場担当者がITに不慣れでも使えますか?
A. 入力項目を絞ったシンプルな画面にすることが重要です。「スマートフォンで入力できる」形にすると、現場での抵抗が大きく下がります。
Q. 発注者が求める様式に対応できますか?
A. 発注者指定の様式がある場合、Excelへのエクスポート機能があるツールを選ぶことが重要です。クラウド上でデータを管理しながら、提出はExcel形式で行う運用が現実的です。
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