先日、「専用ソフトを買う前に、NotionとGoogle Apps Scriptで顧客管理の仕組みを自作してみた」という実体験のコラムを公開しました。そのなかで、自動化の裏方として「Google Apps Script(グーグル・アップス・スクリプト)」という道具を使った、とお伝えしました。
ただ、読み返してみると「そもそもGoogle Apps Scriptって何がいいの?」という肝心の部分を、十分に説明しきれていませんでした。本コラムは、その補足の回です。多くの建設会社の現場で使われている「Excelのマクロ」を出発点に、Google Apps Scriptが何が違って、なぜ今あらためて使いやすくなったのかを、なるべく噛み砕いて解説します。
まず、多くの現場が触れている「Excelのマクロ」から
建設会社の事務所をのぞくと、Excel(エクセル)はほぼ必ず使われています。そして、その中の一部の方は「マクロ」という機能にも触れたことがあるのではないでしょうか。
**マクロ(VBAとも呼ばれます)**とは、Excelに最初から付いている自動化の機能のことです。たとえば「日報の数字を決まった形に集計する」「複数のシートから値を拾って一枚の帳票を作る」といった、毎回同じ手順でやる作業を、ボタン一つで自動的に処理してくれます。実際、出来高の集計表や原価管理の帳票づくりなど、現場の事務作業の多くがマクロで回っている会社も少なくありません。
マクロはとても便利で、馴染みもあります。ただ、一つだけ大きな制約があります。それは——パソコンを開いて、Excelを起動していないと動かない、ということです。
マクロはあくまで「そのパソコンの中」で動く仕組みです。ですから、夜間や休日に、誰もいないオフィスで勝手に処理を走らせる、といったことは基本的にできません。「毎朝、出社前に集計を済ませておく」をマクロでやろうとすると、結局、誰かが早く出社してパソコンを立ち上げ、Excelを開いてボタンを押す必要があります。
見直したい理由①:パソコンを閉じていても動く
ここで登場するのが、Google Apps Scriptです。略して「GAS(ガス)」と呼ばれます。
GASは、Googleが提供している無料の自動化の仕組みです。イメージとしては、クラウド(インターネット上)で動く、マクロのようなものと考えていただくと分かりやすいと思います。GmailやGoogleスプレッドシート(Google版のExcelのような表計算ツール)と直接つながっていて、それらを連携させて決まった処理を自動で動かせます。
そして、Excelのマクロとの決定的な違いがここにあります。GASは、自分のパソコンの中ではなく、Googleのクラウド上で動くという点です。
GASには「時間トリガー」という設定があります。これは「毎朝7時」など、決まった時刻になったら自動で処理を動かす仕組みのことです。クラウド上で動くので、自分のパソコンの電源が入っていなくても、設定した時刻になれば処理が走ります。
先日の顧客管理のコラムで触れた「毎朝、前日のメールのやり取りを顧客管理に自動で記録しておく」という仕組みも、まさにこれです。出社前、誰もパソコンを開いていない時間帯に、クラウド側が黙々と前日のメールを整理してくれている。朝オフィスに着いたら、すでに記録が済んでいる——マクロでは難しかったこの動き方が、GASでは自然にできます。
「パソコンを閉じていても動く」。これが、あらためてGASを見直したい一つ目の理由です。
見直したい理由②:自分でコードを打たなくてよくなった
GASにも、これまで一つハードルがありました。それは「結局、自分でプログラムを書かないといけない」という点です。
マクロもGASも、動かすには「こう処理してください」という指示をプログラムの形で書く必要があります。プログラミングに不慣れな方にとって、これは決して小さくない負担でした。「便利そうなのは分かるけれど、自分には書けない」と感じて、手前で止まってしまった方も多いと思います。
ところが、ここ最近で状況が変わってきました。鍵になるのが、次の2つの道具です。
- clasp(クラスプ):GASのプログラムを、手元のパソコン側で用意して、それをGoogleのクラウドへ送り込めるツールです。
- AIコーディングエージェント(CLI):文章で「こういう処理をしたい」と指示すると、その通りにプログラムを書いてくれるAIの道具です。
この2つを組み合わせると、何が起きるか。「前日のメールを取得して、表に1件ずつ記録したい」と言葉で伝えれば、AIがそのプログラムの土台を用意し、claspを使ってクラウドへ送り込むところまで、進めやすくなりました。
つまり、自分でコードを一行ずつ打ち込まなくても、自動化の仕組みを用意しやすくなってきた、ということです。もちろん中身をまったく理解しなくてよい、という話ではありませんが、以前に比べると、プログラミングに不慣れな方でもGASに手が届きやすくなったのは確かだと感じています。
他の選択肢と、公平に比べてみる
「自動化」という観点では、GASだけが選択肢ではありません。代表的なものと公平に比べてみます。どれが優れているという話ではなく、会社の環境次第で向き不向きが変わる、というのが実際のところです。
Excelのマクロ
手元のパソコンで完結し、多くの方が馴染んでいる、という強みがあります。一方で、これまで述べた通り、クラウドで常駐させる(パソコンを閉じても動かす)ことは基本的にできません。「いつもの作業をその場で速くする」のは得意ですが、「無人で定時に動かす」のは苦手、という整理になります。
Microsoft の Power Automate(Power Platform)
Microsoftが提供している自動化の仕組みです。こちらはクラウドで動かせるので、パソコンを閉じていても処理を走らせることが可能です。この点はGASと近い強みを持っています。
ただし、その多くの機能は有償のプランや、Microsoft 365(マイクロソフトの法人向けサービス群)の環境を前提とすることが多い、という違いがあります。普段からMicrosoftの環境(WordやExcel、Teamsなど)を中心に業務を回している会社であれば、相性が良い選択肢になり得ます。
GAS(Google Apps Script)
無料で始めやすく、GmailなどGoogleのサービスと相性が良い、という特徴があります。普段からGmailやGoogleスプレッドシートを使っている会社であれば、入り口の負担が小さい、と言えます。
このように、「どちらが良いか」は、その会社が普段GoogleとMicrosoftのどちらの環境を使っているかにもよります。料金やプラン、対応機能は変動しますし、各社それぞれに考え方があります。導入を検討される際は、各社の公式ドキュメントをご確認いただくのが確実です。ここでお伝えしたいのは、「自動化=Excelのマクロ」と思い込んでいた方に、別の道もある、という視点です。
便利さの裏で、留意しておきたいこと
最後に、中立な立場から留意点もお伝えします。
AIに任せて作った仕組みは、確かに用意しやすくなりました。ですが、その分、中身を誰も把握していない、という状態に陥りやすいという懸念があります。「とりあえず動いているけれど、何をどう処理しているのかは誰も説明できない」となると、いざ不具合が出たときや、担当者が代わったときに、誰も手を入れられなくなってしまいます。
また、GASに限らず自動化の仕組みは、連携先のサービスの仕様変更などで、ある日突然止まる可能性もゼロではありません。Gmailやスプレッドシートといったつながっているサービスのほうが変われば、それに合わせて手直しが必要になることもあります。
ですから、「動けばよい」で終わらせず、何を・どこから・どこへ・どう自動化しているのかは、人がきちんと把握しておくのが望ましいと考えています。仕組みの全体像を、誰が見ても分かる形でメモに残しておくだけでも、後々の安心感はずいぶん変わってきます。
その上で言えば、Excelのマクロで自動化に親しんできた建設会社にとって、GASは「次の一歩」として検討する価値のある道具だと感じています。パソコンを閉じていても動き、AIの助けで以前より用意しやすくなった——その変化は、現場の事務作業の負担を少し軽くしてくれる可能性を持っているのではないでしょうか。