「あの会社と、最後にいつ・誰と・何を話したか」——これがすぐに出てこない。営業活動を続けていると、誰しも一度はぶつかる悩みではないでしょうか。
弊社(建ログ)も例外ではありませんでした。営業先の企業名、担当者、進行中の案件、過去のやり取りの履歴が、メールの受信トレイ、エクセルの一覧表、そして自分の頭の中に散らばっていました。久しぶりに連絡を取ろうとしたとき、「前回どんな話で終わったか」を思い出すのに時間がかかる。これでは、せっかくの関係を活かしきれません。
こうした課題を解決する専用の顧客管理ソフトは数多くあります。ただ、機能が豊富な反面、料金や運用の負担が中小企業には重く感じられることもあります。そこで弊社では、いきなり専用ソフトを契約する前に「まず手元にある無料〜低額の道具で、どこまでできるか」を試してみました。本コラムは、その実体験の記録です。
使ったのは2つの道具だけ
今回使ったのは、次の2つです。どちらも、専用の顧客管理ソフトではありません。
- Notion(ノーション):ノーコード(プログラミング不要)で表やデータベースを作れるツール。情報の「入れ物」として使いました。
- Google Apps Script(グーグル・アップス・スクリプト):Googleが提供する自動化の仕組み。GmailやスプレッドシートなどのGoogleサービスを連携させ、決まった処理を自動で動かせます。手元のメール作業を自動化する「裏方」として使いました。
これらの具体的な機能や料金プランは変動するため、本コラムでは細部に踏み込みません。導入を検討される際は、各社の公式ドキュメントをご確認ください。ここでお伝えしたいのは、ツールそのものよりも「情報をどう分け、どう繋ぐか」という設計の考え方です。実は、ここが顧客管理の仕組みづくりで最も重要な部分だと感じています。
設計の核:情報を4つのまとまりに分けて繋ぐ
弊社では、顧客に関する情報を次の4つのまとまりに分けました。そして、それぞれを「リレーション(関連付け)」という機能で互いに繋ぎました。リレーションとは、別々の表のデータ同士を紐付ける仕組みのことです。
| まとまり | 何を記録するか |
|---|---|
| 会社 | 取引先の企業そのものの情報 |
| 担当者 | 人。どの会社に所属しているかを紐付ける |
| 案件 | 見積・受注・売上といった、個別の商談 |
| 接触履歴 | 打ち合わせ・メール・電話などのやり取りを、1件=1レコードで記録 |
4つを繋いだ結果、何が起きたか。たとえば、ある「会社」のページを開くと、その会社にぶら下がる案件の一覧、担当者の一覧、これまでの接触履歴、そして「最後に接触した日」や「これまでの接触回数」までが、一画面で見えるようになりました。
「この会社と、最後にいつ・誰と・何を話したか」——冒頭の悩みが、ページを1枚開くだけで解消されたのです。バラバラだった情報が一本の線で繋がった瞬間でした。
「3つの層」で情報を整理するという考え方
ここで、弊社が運用してみて特に手応えを感じた工夫を紹介します。それは、記録する情報を「層」で分けて考えることです。同じ「やり取りの記録」でも、粒度(細かさ)を変えて3つの層に分けると、後から振り返りやすくなりました。
第1層:接触履歴には「生のやり取り」をそのまま貯める
一番細かい層です。メール1通、打ち合わせ1回を、それぞれ1件のレコードとして、加工せずそのまま記録します。要約せず生の記録を残すのがポイントで、後から「言った・言わない」を確認したいときの一次情報になります。
第2層:担当者のページには「経緯の総括」をまとめる
その担当者個人と、これまでどういう経緯でやり取りしてきたか。第1層の細かい記録を踏まえて、「この人とは、こういうストーリーで関係が進んできた」という総括を、担当者のページにまとめます。一人ひとりとの関係の流れが見えるようになります。
第3層:会社のページで「全体を俯瞰する」
一番大きい層です。その会社では、どんな案件が並行して動いているか。関係全体はどんな状態か。複数の案件をポートフォリオ(組み合わせ)として眺め、関係を俯瞰します。
このように層を分けておくと、「細かい事実を確認したいとき」「人との関係を振り返りたいとき」「会社全体の状況を掴みたいとき」で、見る場所を使い分けられます。この整理の発想自体は、ツールが何であっても応用が利く考え方だと感じています。
続けるための自動化:メールの転記をやめる
仕組みを作っても、運用が続かなければ意味がありません。実際に作ってみて最初に直面したのが、「メールのやり取りを手で転記するのは続かない」という現実でした。1日に何通もある営業メールを、いちいち接触履歴に書き写すのは、現場の合間ではとても続きません。
そこで、ここで Google Apps Script の出番です。特定の取引先とのメールを Gmail から自動で取得し、顧客管理の「接触履歴」に1通ずつ自動で記録する仕組みを作りました。実際に運用しているなかで、特に効いていると感じる工夫は次の通りです。
- 返信時の引用部分を除く:返信メールには過去のやり取りが引用で付いてきますが、それを取り除き、その回に書いた中身だけを残すようにしました。記録が読みやすくなります。
- 二重登録を防ぐ:メールには固有のID(識別番号)があります。これを目印にすることで、同じメールが何度も登録されるのを防ぎました。
- 自動で紐付ける:取得したメールが「どの会社・どの担当者とのやり取りか」を、自動で判定して紐付けるようにしました。
- 毎朝、自動で実行する:決まった時刻に自動で動くよう設定したため、PCを起動していなくても処理が進みます。朝、出社すると前日のやり取りが整理されている状態になりました。
転記という手作業がなくなったことで、「仕組みはあるのに更新が止まる」という、自作でありがちな失速を避けられました。
やってみて分かったこと、そして留意点
この取り組みを通じて感じたことを整理します。
まず、最初から高価な専用ソフトを入れなくても、手元の道具と少しの工夫で、顧客管理を仕組み化する方法はあるということです。少なくとも弊社の規模では、十分に実用に耐える形になりました。
そして繰り返しになりますが、大切なのはツールそのものより「情報をどう分け、どう繋ぐか」という設計だと実感しました。ここがしっかりしていれば、後でツールを乗り換えても、考え方はそのまま引き継げます。
導入の順番として、まず小さく自作して「運用に乗るかどうか」を確かめてから、専用ツールを検討するというやり方も、一つの選択肢ではないかと思います。自分たちにとって本当に必要な機能が、自作を通じて見えてくるからです。
ただし、自作には留意すべき点もあります。自作の仕組みは、作った人だけが構造を理解している「属人化」の状態に陥りやすい面があります。担当者が変わったときに、誰も中身を触れなくなってしまうと、かえって業務が止まりかねません。また、自動化の処理は、連携先のサービスの仕様変更などで動かなくなる可能性もゼロではありません。
そのため、自作で進める場合は、設計の意図や仕組みの全体像を、誰が見ても分かる・引き継げる形で残しておくことが望ましいと考えています。どこまでを自作で賄い、どこから専用ツールに任せるか。その線引きは、各社の規模や体制によって変わってくる部分でしょう。
弊社の場合は、「手元の道具で小さく組んでみる」という入り口から始めたことで、自社の営業に本当に必要なものが少しずつ見えてきました。同じように、専用ソフトの導入に踏み切れずにいる中小の建設会社にとって、一つの参考になればと思い、実体験をまとめました。